TPPと医療と保険 前編

TPPの中で討議されている内容には、
関税の他に医療や保険に関するものがあります。
皆さんが病気になった時頼りになる健康保険や生命保険もTPPの交渉材料なのです。

■  混合診療
日本には国民皆保険制度(健康保険)があります。
これにより、病院で1ヶ月に1,000万円の医療を受けた場合でも
窓口負担は4万円程で済むようになっています。

日本人の年齢別死亡順位を厚労省の資料で見ると、
70才の人の死因のトップは悪性新生物(ガン)であり約44%。
次は心疾患(13%)、脳血管疾患(9%)と続きます。

死因の半数を占めるガンは、未承認有効新薬が治療に有効な場合があります。
しかし、この新薬を使った治療は健康保険の対象にはならず自由診療になるため、
上記の例では、患者さんの支払額は1,000万円になるのです。

混合診療では、通常診療分は保険を適用し
未承認有効新薬分は自由診療とすることができます。
これにより、患者さんの支払いは380万円で済みます。

ここまで見ると、患者さんの選択肢が広がるので
混合診療を進めるべきと考える人もいることでしょう。
しかし、完治が保証されているわけではなく、
支払が何年続くかも分からないのです。
普通の人は毎月380万円を支払うことはできません。

何としても命を助けたいと思う医者や利益を考える医者は
自由(混合)診療を勧めるでしょう。
患者の側も普通はどうしても助かりたいと望み、
無理をしてでも混合診療を受けるでしょうから、
その結果医療費がかさみ、貧困化に繋がることが考えられます。
企業による医療への参入も検討されているようですが、
企業の一番の目的は売り上げと利益を確保することですから、
利益率の高い自由(混合)診療が増加し、
高額医療費を払える金持ちばかりが
質の高い医療を享受できるという事態が増長しかねません。
また、救急患者の場合、お金がないということで
病院に受け入れてもらえないということも考えられるでしょう。

4月16日、安倍首相は経済財政諮問会議で
混合診療の大幅な拡大の検討を指示したそうですが、
TPPを進めるにあたり既に米国と
何らかの交渉を行っているのではないかと思うのは考えすぎでしょうか。

ちなみに、厚生労働省は見直しに消極的です。また、日本医師会は反対しています。

【医療法人売上順位】
順位  名称           2012年度売上高(百万円) 2012年度利益(百万円)
1           日本赤十字社                               1,119,146                                    3,404
2          (独)国立病院機構        908,455                                  41,872
3          (社福)恩賜財団済生会      576,644                                  22,547
4          (医)徳洲会           185,336                                    9,487
5          (医)沖縄徳洲会           99,352                                    8,055
出典 : 東京商工リサーチ資料から作成(学校法人は除く)

(次号に続く)
6月号2/2 TPPと医療と保険

この掲載文は、ロジスティクストレンド誌に連載している内容を転載しております。
http://www.logitrend.info/

 

貿易コンサルタント 木村徹