ヤマトと佐川 どちらが賢かったのか?

ヤマト運輸の値上げ戦略

ヤマト運輸の宅急便運賃の値上げが毎日のように話題になっています。

この話題は、ヤマト運輸の労働組合が2017年の春闘で

会社側に宅配便の荷受量の抑制を求めたことが発端でした。

これは、取扱個数が著しく増加したことにより人手不足に陥ったため、

現在の人員体制では限界だという理由からでした。

 

ヤマト運輸としてはネット販売事業を行っている大口顧客に対して

値上げ要請をすることができないけれども、

何とか値上げをしないと会社の存続自体が危ないということから、

労働組合に大変だと言わせて世論を味方につけ、

値上げの必然性を説いたのではないでしょうか。

どのメディアも、そのようなことは書いておりませんが、

筋書きとしてはありえるのではないのかと思います。

これもマーケティング戦略の一つでしょう。

 

宅配運賃の平均額は?

ヤマト運輸の平均運賃は一個当たり約560円です。

一般顧客用の運賃が一個当たり平均1,200円とすると、

この平均運賃はタリフの約50%です。

一般顧客比率は約1割なので、

大口顧客のみの平均運賃は500円を少し割ったくらいと計算することができます。

 

本来であれば、約1割しかいない一般顧客の運賃を値上げしても

収支の改善には焼け石に水です。

しかし、大口顧客に値上げを理解してもらうためには、

一般顧客の運賃を値上げせざるを得なかったのではないかと思われます。

ちなみに、佐川急便は大口顧客にのみ値上げ要請をするようですが、

もともと一般顧客の比率が少ないので、

そこに手をつけても意味がいないという判断なのでしょう。

 

西の横綱はどうやって相撲をとったのか

ヤマト運輸が宅配業界の東の横綱とすれば、西の横綱は佐川急便です。

この佐川急便ですが、2013年にアマゾンに三下り半を突きつけ、

アマゾンの業務を止めました。これは、売上よりも利益を重視したからです。

これにより、一個当たりの単価が大きく改善されました。

どのように改善されたかと言うと、

2013年時の1個当たりの配送単価は460円でした。

しかし、2016年には510円にまで改善されています。

ちなみに、その間の取扱い個数は1億5千万個減っています。

つまり、個数を追い求めるのではなく、利益の確保を確実にしたのです。

 

これにより、佐川急便が扱っていたアマゾンの貨物は、

ヤマト運輸と日本郵便が扱うことになりました。

宅配業界は装置産業であるため、本来であれば扱い個数を増やすことで

一個当たりの取扱いコストを下げることができるのですが、

単価を下げるにも限度があるというものです。

 

ちなみに、ヤマト運輸も大口ネット販売事業者の貨物を

大幅に安い価格で扱いたいとは思っていないでしょう。

しかし2013年には、

1400億円を投入した羽田クロノゲートが稼働した年だったので、

キャッシュが必要だったのかもしれません。

 

ヤマト運輸の未払い残業代

ヤマト運輸は、2017年3月期の営業利益が半減し

340億円程度になると発表しました。

それは、トラック運転手ら4万7千人に過去2年間分の

未払い残業代190億円を支給することが響いたそうです。

ちなみに、それ以前には未払残業代はなかったのでしょうか?

そんなことはないでしょう。

 

2016年度には500億円もの自己株式の買付を行っています。

また、内部留保がだいぶあるようなので、

今年の残りの営業利益である340億円も

従業員に還元しても良いのではないかとも思いますが、

株主も大事なので従業員は2年分だけで我慢するように

ということなのかもしれません。

 

従業員のことを考えると、2017年3月期で全ての膿を出して、

2018年期で黒字化することで、

V字改革を演出することもできただろうにとも思います。

 

現代社会での宅配業界の位置づけは水道や電気と同等の社会インフラです。

昔であれば、宅配会社のトラックが路上に止まっていれば『邪魔だな』と

感じた人もいたことと思いますが、

今ではそのように思う人は以前よりも少ないでしょう。

このように宅配業界は日本の社会に無ければならない存在になりました。

それを作り上げたヤマト運輸と佐川急便は、やはりすごい会社です。