2020年に向けて海上運賃が上昇すると言われています。
その要因はSOx規制なのですが、そもそもSOx規制とは何なのでしょうか。
SOx規制とは
国際海事機関(IMO)において、1997年にマルポール条約(MARPOL条約)が改正され、2004年5月から、船舶の排気ガス中の窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)などに対する全世界的な規制が始まりました。
このうちSOxについての対策は、燃料油に含まれる硫黄分濃度を決められた値以下にすることで、排気ガス中のSOx及び粒子状物質(PM)を削減するものです。
現在使用されているC重油のSOxは3.5%ですが、2020年からの新しい規制では0.5%以下にしなければなりません。
SOxによる影響
フィンランド政府がIMOの会議で、『船舶用燃料油の規制を行わないと世界(特にアジア地域)で5年間に57万人の死亡者が発生する』という調査結果を報告しました。
SOx規制で行わなければならないこと
簡単に言うと、船舶はSOxを除去するための対策を講じなければならないのです。具体的には、次の3種類のうちのいずれかの手段を取らなければなりません。
- 低硫黄の重油を使用する
- スクラバーを取り付ける
- LNG燃料船を導入する
これらがどのようなものなのか見てみましょう。
1.低硫黄の重油を使用する
現在使用されているC重油はHSC重油(High Sulphur C重油)と呼ばれているものです。
一方、低硫黄重油は、LSC重油(Low Sulphur C重油)と呼ばれています。
その他にHSAやLSAという粘度が低く使いやすい重油もあります。これらはA重油と呼ばれるものです。
その価格はHSAが約72000円/KL、HSCが58000円/KLというように、A重油の方が25%ほど高価です。価格が安い順に並べると、HSC➡HSA➡LSC➡LSAの順番になります(HASとLSCはほぼ同額)。
つまり、LSC重油を使うことで燃料価格が25%以上高くなる恐れがあるのです。ということは、船舶の運航コストが上がるということです。
その上、LSC重油を使うためにエンジンとエンジン周辺装置を改造しなければなりませんし、そこで使われる潤滑油も新しいものにしなければなりません。
具体的に言うと
- 動粘度が低くなるため、エンジン、ボイラー、粘度・温度調整装置、燃料供給ポンプ、循環ポンプなどの機器の交換や改造が必要です。
- 硫黄分が低くなるため、エンジンの潤滑油をアルカリ価(BN)が低いものへ切替えなければなりません。
- 燃料油の流動点が高くなると、燃料油が流動点近くまで冷めないよう長時間加熱を止めないための燃料油ヒーターの改造、タンクや配管内の燃料油温度の低下を防ぐための改造が必要です。
2.スクラバーを取り付ける
スクラバーとは排気ガスを浄化する装置のことです。これをエンジンに追加することで、燃料であるC重油をそのまま活用できます。しかし、1隻あたり10億円を超える投資が必要なうえに、スクラバーの重量分だけ貨物の積載量が減ることになるため、現在の技術では現実的な対応方法ではないと言われています。
3.LNG(液化天然ガス)燃料船
CO2、NOx、SOxの排出量が少なく環境性能が重油よりも優れているLNGを燃料とするエンジンの船を導入することです。しかし、現在付いている重油用エンジンをLNG用エンジンに換装するのは、コスト的に現実的ではないため、新造船に対する対応になります。
世界的には、新造船をLNG船にする傾向にあります。
これらを実施するためにはコストがかかります。つまり、そのコストは海上運賃に転嫁されることでしょう。しかし、その転嫁価格が人の命を救うことになるのです。それを考えた上で船会社と荷主は運賃の価格交渉をすべきと言うことです。