TPPとTPAの違いとは

『2015年8月の記事です』

 

TPP締結は目の前まで来ているように見えますが、なかなか締結されません。

これは、TPPの主要参加国である日本と米国の交渉が

まとまらないことに起因しています。

TPPは、まず日本と米国間で締結されなければ、

その他の国々の交渉が進まないという構図になっているのです。

 

そして、現在その交渉は暗礁に乗り上げています。

それは、「TPA(Trade Promotion Authority、

大統領貿易促進権限法)」が原因です。

では、このTPAとは何でありTPPとどんな関係があるのでしょうか。

 

毎日のように新聞に書かれている単語ですが、

これを知っている人はほとんどいないようです。

 

TPAとは何か

米国では、通商交渉の権限が議会に与えられていると法律で決まっています。

つまり、議会は大統領や政府が外国の政府と交渉した結果であっても、

自由に修正や否決をすることができるのです。

 

多くの人は、米国では大統領が全ての権限を保有していると思っているようですが、

通商交渉についてはこれが当てはまりません。

 

日米間でのTPP交渉を見てみましょう。

実際に交渉を行っているのは米国大統領から指名された

USTR(米国通商代表)なのですが、

過去の日本との交渉では、米国は準備してきた条件を強く主張するだけで、

日本がその条件を飲めないと言うと、

怒って持ち帰るという毎回決まったシナリオになっています。

 

その場で米国が譲歩交渉をすることはありません。

それは、先に説明したように米国大統領は通商交渉に関する権限を持っておらず、

当然、交渉を委託されたUSTRもその権限がないからであり、

USTRは交渉結果を持ち帰って、都度議会に諮らなければならないのです。

 

このように、TPAが付与されていない大統領とは、

通商交渉においてなんら権限を有していない者であるということが言えます。

 

TPAの歴史

2007年に米韓EPA交渉が妥結し2007年6月30日に両国により署名されましたが、

そのときの大統領であるブッシュ政権に付与されていたTPAは

同年7月1日に消滅しています。

 

つまり、TPAを有効に使って期限ぎりぎりに米韓EPAを締結させたと言えるでしょう。

しかし、2010年に追加交渉が行われた際には

大統領にTPAが付与されていなかったため、議会が合意内容の見直しを要求し、

韓国は米国に環境規制などの点で譲歩を余儀なくされたそうです。

 

米国でも、TPPに反対している議員と賛成している議員がいます。

反対議員は大統領に通商交渉権限を与えることになるTPAに当然反対しているため、

TPAがすんなりと議会を通過しないのです。

 

反対派・賛成派がいる構図としては、どこの国も同じということです。

 

obama

 

 

 

 

 

 

 

 

2015年4月28日(現地時間)、ホワイトハウスでの

バラック・オバマ大統領との会談(首相官邸ホームページより)

 

信頼できない交渉相手

米国大統領がTPAを付与されていない場合、

日本政府としては決定権のない米国代表団と交渉しても、

その交渉はその場限りの内容になってしまいます。

 

甘利大臣がいつもいつも腹を立てているのはこれが原因の一つでしょう。

 

日本としては、TPAを付与されている大統領が指名した人物であれば、

交渉相手として信頼することが出来ますが、

付与されていない状態では交渉相手というより、

単なる伝達役としか言えないのではないでしょうか。

 

貿易コンサルタント 木村徹